2024年4月、世界で初めてDeepL Pro Enterpriseを導入した、日本の五大法律事務所の一角である長島・大野・常松法律事務所。
同法律事務所は、国際案件や外資系企業とのやり取りも多く、日常的に大量の英語による法律文書を取り扱っています。秘匿性の高い法律文書を扱いつつ、正確に情報を理解・伝達する必要がある環境下で、DeepLの言語AIがどのように貢献しているか詳しく伺いました。

・国内外に豊富な実績を持つ長島・大野・常松法律事務所。世界初のDeepL Pro Enterprise導入の決め手は、強固なデータセキュリティーと圧倒的な業務効率化
・数日かけて行っていた大量の翻訳作業がわずか数分で完了。業務負担の大幅な削減を実現
・海外拠点との迅速なコミュニケーションや、国内のグローバルメンバーを交えたチームの活性化に寄与

日々多忙を極める弁護士業務において、コミュニケーションに伴う翻訳作業の負担軽減は重要な課題です。国際案件や外資系企業との取引が多い長島・大野・常松法律事務所では、若手弁護士からベテラン弁護士までがDeepLを活用し、それぞれのニーズに応じた形で大幅な業務効率化を実現しています。
井上氏:長島・大野・常松法律事務所は、東京をはじめニューヨークやシンガポールなど、海外にも多数の拠点を構えています。こうしたグローバルな拠点間の意思疎通において、DeepLを活用しています。
法律文書の翻訳にも、DeepLは欠かせません。特に、国際案件においては弁護士が大量の英語書類等を、短時間で把握する必要があり、その際にDeepLの翻訳機能が重宝されています。「人の手で翻訳するよりも正確で、圧倒的に早い」手段として、内容を理解したい文書が届いたら、まずDeepL翻訳を行うことが多いです。より正確な訳文を作る際は、それをたたき台として日本語へ翻訳していきます。また海外の依頼者とのやりとりや事務所内の連絡においても、日本語から他言語へ、他言語から日本語への翻訳を日常的に行っています。
弁護士は、業務の特性上、連絡内容について認識の齟齬が生まれないよう特に細心の注意を払ってメールを作成します。当然、英文のメールは日本語以上に書くのに時間がかかってしまうのですが、日本語で作った案文を翻訳にかけて英文メールのたたき台を作成するなど、DeepLを活用した効率化がなされています。これにより大幅に業務にかかる時間が短縮されてきました。
一方、「伝われば良い」程度の事務所内のコミュニケーションであれば、翻訳したものをそのまま送信できることも多いため、意思疎通には十分なクオリティーを提供してもらっていると感じています。
また、弁護士によっては、自らの英語文章表現をブラッシュアップするために文書校正機能の「DeepL Write」を活用しています。DeepLは利用者のニーズを広くカバーできていて、利用者のスキルや用途に応じて、柔軟に使い分けることができています。
パートナー弁護士 井上 博登氏
山本氏:現在、長島・大野・常松法律事務所には約600名の弁護士が在籍し、スタッフも含めると総勢1,000名以上が働いています。こうした体制を支えるため、1,000アカウントから利用可能なDeepLの「Enterprise」プランを導入し、全社的な活用を進めています。特に現場で活用されているのは、ファイル翻訳機能です。オフィスファイルやPDFをアップロードするだけで一括翻訳が可能なため、非常に重宝されています。
サービスの使い勝手や翻訳の精度については、利用経験のあるメンバーから話を聞いていたので、不安はありませんでした。最大の決め手となったのは、DeepLの堅牢なセキュリティーです。
当事務所では、契約書など秘匿性が高い情報を扱うため、言語AIに限らず、サービス選定においては情報保護の観点を何よりも重視しています。現場から導入を求める声が上がったサービスでも、セキュリティー上の懸念から導入を見送らざるを得ないAIサービスも少なくありません。
実は、DeepLと同時期に他社の生成AIのサービスも検討しましたが、入力した情報が機械学習に利用される可能性を完全には排除できず採用には至りませんでした。その点、DeepLはデータの管理方法や運用ルールが明確で、情報が適切に保護されていることを確認できたため、安心して導入することができました。
DeepLの厳格なエンタープライズグレードのデータ保護については、こちらのページをご覧ください。
山本氏:元々、事務所内からは「事務所全体で、言語AIサービスを導入してほしい」という声が上がっていました。
実際のところ、DeepL導入前は個人で言語AIサービスを契約し、秘密情報を入力しないとの事務所内ルールの範囲内で利用している弁護士も少なくありませんでした。
もっとも、事務所が正式に許可していないツールやサービスを個人が自己判断で業務に使用している状態は、情報管理の観点では望ましくはなく、このような背景を踏まえ、事務所内のIM(インフォメーション・マネジメント)委員会やリーガルテック研究会と連携しながら、導入候補となるサービスを比較・検討しました。その結果、DeepLを正式に導入することを決めました。
数あるプランの中でも「Enterprise」プランを選定した要因の一つは、管理面での利便性です。DeepLはIT部門の管理がとてもシンプルで使いやすく、私たちの管理作業負担を減らすことができます。長島・大野・常松法律事務所では、弁護士だけでなくバックオフィスやIT部門まで、ほぼすべての従業員が多言語環境で働いています。使用頻度に差はあっても、業務や部門に関係なく全社的に導入することで、業務のさらなる効率化が図れると考えました。全社的に導入したほうが管理面でのコストを下げられることも、大きなメリットだと感じています。
DeepLの一つ下のプラン、「Business」プランの導入も検討しましたが、使用できる機能が制限されると、日常的にDeepLを使う弁護士にとってはかえって不便になってしまう。こうした利便性を損なわず、全社でスムーズに展開できることも、「Enterprise」プランを選んだ理由の1つです。
事務局次長 山本 直毅氏
井上氏:特に効果を感じているのは、英文資料の理解や処理を行う場面です。英語を母語としない弁護士にとっては、大量の英文資料を短時間で読解するのはハードルが高い作業となり、また、正確な翻訳を作ろうとすると1ページの翻訳に数時間かかることもありました。翻訳作業などは若手の弁護士が対応することが多いのですが、これは「丸一日かけて、ようやく“下訳”ができる」ほどの、大きな負担のかかる作業、表現の推敲までを含めると、さらに時間を要していました。
しかし、DeepLの導入で「とりあえず訳してみる」アクションができるようになり、丸一日かかっていた作業がほんの数分で終わります。アプリの使い勝手の良さもあり、「届いた英語のファイルは、まず翻訳する」習慣がすっかり定着しました。大量の英文資料に向き合う心理的なハードルが下がり、業務効率の飛躍的な向上に寄与していると思います。
野田氏:私はヘルプデスク業務も担当していますが、事務所内向けマニュアルの作成が格段に楽になりました。日本語で作ったマニュアルの他拠点向け翻訳版を用意する際、以前は、翻訳作業に日本語マニュアルを作るのとほぼ同じだけの時間がかかっていました。
しかし今ではその工程が不要に。翻訳込みで10時間かかっていた作業が、翻訳がすぐに終わり、従来の半分の時間で完了するインパクトはとても大きかったです。また海外の拠点から「システム障害の報告」といった急を要する連絡を受けた際でも、英訳に時間を取られることがなくなり、DeepLで翻訳した内容をそのまま安心して送れます。
山本氏:IT部門としては、海外拠点からの依頼を受けたトラブル対応がスムーズになったのは大きな変化だと感じています。以前は英語が堪能な一部のメンバーに依頼が集まりがちでしたが、今では誰もが問い合わせ内容を把握できるようになり、対応できる人の幅が広がりました。
井上氏:私は「協働」という面でも効果を感じています。私たちの事務所には日本語を母国語としていないメンバーも多く在籍しており、多言語環境で仕事をしています。もっとも、全員が全ての言語を扱えるわけではありませんので、例えば英語が得意でないメンバーは、どうしても英語をメインの言語としてコミュニケーションを取っているチームにはなじんで行きづらいところがありました。それが、DeepLの導入によって人と人の距離が縮まり、チームでの連携がしやすくなったと感じています。
日本語をコミュニケーション言語としている依頼者の案件に日本語が得意でないメンバーが入った場合、誰かに通訳してもらったりしないと案件の状況が理解できず、スムーズにチームワークを行うことができませんでした。しかし現在は、案件関係資料やチーム内コミュニケーションについてはDeepLによってすべて自分の得意な言語で読むことができ、言語の壁を超えたコミュニケーションも取りやすくなりました。東京オフィスだけではなく、海外オフィスで働くメンバーも増えた中、チームで働ける環境を整えるためにDeepLが果たした役割は大きいと感じています。
井上氏:法律関連の文書で使う際には、翻訳のブレを防ぐためにDeepLの「用語集機能」を活用し、翻訳の精度を高める工夫をしています。
私たちが取り扱う契約書類には「定義語」と呼ばれる、契約書内において、それが意味するものや範囲を明確に定めた言葉があります。この定義語の訳にブレがあったのでは訳文の理解に齟齬が生じるため、「訳の一貫性」が求められる場面ではDeepLの用語集が活躍し、各チームが意識的にこの機能を活用しています。
一方で、弁護士業務上特有の問題ですが、あえて曖昧さを残しているような法律文書ではDeepLによる「文脈を理解し、自然な言葉にしてアウトプットする」強みが裏目に出てしまうこともある印象です。こうした場面では、あえて機械的な翻訳を行うサービスを併用するなど、翻訳の特性を踏まえて運用しています。
もちろん、言語AIを利用しても、表現を推敲し最終的な文面を仕上げるのは人の役割です。もっとも、それを前提としつつも、ドラフト作成や英文の内容を素早く把握したい場面では、DeepLは圧倒的に使い勝手のよいサービスだと感じています。操作性もシンプルなので、AIの知識や世代を問わず、誰にでも使える点も魅力ですね。
野田氏:私が働くIT部門では、DeepLを業務に取り入れてもらいやすくするため、事務所内での情報発信に力を入れています。例えばDeepLに関するTipsを事務所内ポータルで共有したり、ウェビナー形式で勉強会を開催したりと、現場がDeepLを活用しやすく、より効率化を計れる環境づくりを進めています。

インフォメーション・マネジメント 野田 文徳氏
井上氏:欲を言えば、原文に含まれる微妙なニュアンスや間違いまで、全てをできるだけ忠実に再現してくれる「直訳に近い翻訳」に訳出する切り替え機能が追加されると助かります。契約実務では、契約書の表現にも細やかな配慮が求められます。1字1句のニュアンスにこだわり、時には厳密な表現をあえて避けた文言にすることも少なくありません。
現時点でもDeepLは十分に私たちの業務を支えてくれてはいますが、将来的にはより業界に特化した機能が追加されて、仕事の右腕と呼べるほどの存在になってくれることを期待しています。
井上氏:現在、海外オフィスのメンバーも増えており、拠点同士の交流もさらに活発にしていきたいと考えています。DeepLの利活用で言語の壁を取り払われ、コミュニケーションが活性化することで、事務所全体としての一体感がより強固になっていくことを期待しています。
あらゆる形式のファイルを複数まとめて、多言語に一括翻訳できます。条項や契約文書の形式を損なうことなく、文書全体を元の書式のまま翻訳できます。そのため、大がかりなデザインの修正や、面倒な翻訳ツールへのコピー&ペーストは必要ありません。高度なカスタマイズ機能により、一貫性のあるコンプライアンスに準拠した翻訳が提供されます。その結果、100以上の言語で契約を締結することが可能になります。
あらゆる言語のニーズに対応した包括的なソリューションにより、お客様のグローバルなコミュニケーションを強化できます。