DeepL Voiceはいかにしてリアルタイム音声翻訳特有の課題を克服しているのか

主なポイント

  • リアルタイム音声翻訳では、スピードと正確性に加え、不完全な文を処理する能力が求められます。これらはテキスト翻訳にはない課題です。
  • 話し言葉には、言いよどみや口語表現、短い相槌などが含まれるため、それらを文字どおりに翻訳するのではなく、必要に応じて調整する必要があります。
  • 翻訳速度が人の話すスピードに近づくことで、会議の参加者は受け身の聞き手から、積極的な発言者へと変わります。
  • DeepL Voiceは、文の途中で新たな情報が加わっても自然に反映できる柔軟な翻訳を生成することで、「ちらつき」を最小限に抑えます。
  • DeepL Voiceによる動詞の位置や文構造、文脈の判断には、人間の言語学の専門知識が反映されています。
  • DeepLは、DeepL Voiceが実際のコミュニケーションで重視されるニーズを反映できるよう、企業や言語学の専門家と連携しました。
  • NECは、DeepL Voiceのリリース後、これを全社的に導入した最初の企業となりました。
  • Voice、DeepL翻訳、Writeを含むDeepLの言語AIスイートは、グローバル企業が自信を持って、明確なコミュニケーションを実現するためのツールを提供します。

人は、書くときと同じように話すわけではありません。そして、会話はメールや記事を読むのとはまったく異なる体験です。 

話しているその瞬間に相手を理解する能力、つまり、言語・非言語を問わず、さまざまな情報を組み合わせて相手の意図を瞬時にくみ取る能力は、人間ならではの高度なコミュニケーション能力です。 

一歩引いて会話を見つめ直してみると、私たちがいかに多くの情報を瞬時に伝え合っているかに驚かされます。 

DeepLがDeepL Voiceで実現したように、会話が進行するその場で音声によるやり取りを翻訳することに取り組むと、話し言葉の翻訳がテキスト翻訳とは大きく異なることに気づかされます。 

この記事では、そうした知見の一部を紹介するとともに、それらを活用して会議や会話のあり方をどのように変えているのかを説明します。

リアルタイムの音声対音声翻訳が、ついに実現。DeepL Voiceがそれを可能にする仕組みをご覧ください。.

リアルタイム音声翻訳がテキスト翻訳より難しい理由

瞬時に行われる自然な会話によるコミュニケーションは、本質的に人間ならではのものであり、AIのような高度な技術であっても再現するのは極めて困難です

人々が多言語での会話を理解し、参加できるよう支援する企業向けソリューションを構築するには、まずその課題を深く理解することが不可欠です。

その課題には、相手が話し終える前に何を言おうとしているのかを予測するという、人間ならではの能力を再現することも含まれます。 

リアルタイムで音声を翻訳するには、相手の発話を別の言語でどのように表現するのが最適かを先回りして予測する必要があります。そして、長い遅延を避けるためには、元の文が最後まで話されるのを待たずに翻訳を進めなければなりません。 

ここでの課題は、文の途中では正確に思えた翻訳でも、話し手が最後まで話し終えると、不正確な訳になってしまう可能性があることです。 

DeepL Voiceの開発に着手した際、技術だけでは高品質なリアルタイム音声翻訳を実現できないことは分かっていました。その実現には、言語がどのように機能するのかについての深い関心と理解が欠かせません。 

そのため、話し言葉に関する言語学の専門家の知見を取り入れました。また、さまざまな言語がどのように機能するかについての、DeepLの優れた文脈理解能力も活用しました。 

さらに、企業と連携し、各社が重視する点や、企業にとって最も価値の高い音声翻訳体験について調査を行いました。

DeepLのAIが翻訳を進化させ、言語や国境の壁を越えたビジネスをどのように実現しているのかをご覧ください

リアルタイム音声翻訳でスピードが最優先される理由

私たちが最初に得た知見の一つは、会議や会話のリアルタイム翻訳では、タイミングが何より重要だということです。

翻訳速度を話し手の話す速度に近づけ、一文を話し終えるまでに翻訳を表示できれば、より多くの人が参加しやすい会議を実現できます。 

世界的なベーカリー・製菓メーカーであるBrioche Pasquierの国際コーディネーター、Christine Aubry氏は、DeepL Dialoguesで次のように説明しています。 

Aubry氏は、翻訳速度が向上することで、人々は受け身の聞き手から積極的な参加者へと変わると述べています。他の人が別の言語で話している内容を必死に追いかける必要がなくなり、会話の流れに遅れずについていけるようになります。母国語で会話する人と同じように、途中で発言したり、会話の流れを作ったり、積極的に議論に参加したりする機会が得られるのです。 

たった1秒ほどの差が、大きな違いを生みます。

したがって、リアルタイム音声翻訳では、スピードが最優先事項となります。しかし、スピードだけでなく、利用者の体験に大きな影響を与えるほかの重要な要素とのバランスも取らなければなりません。誤解や混乱を避けるため、翻訳は可能な限り正確である必要があります。 

また、可能な限り、後から意味が変わったことで、すでに表示した翻訳を修正しなければならない際に生じる「ちらつき」を最小限に抑える必要があります。ちらつきが少ないほど、自然に会話についていきやすくなります。

話し言葉と書き言葉の違い—そして、それが翻訳で重要となる理由

リアルタイムの会話を正確に翻訳するには、書き言葉のパターンと話し言葉のリズムの違いを理解することが重要です。

例えば、人それぞれの話し方は、書き言葉よりもはるかに個性が表れやすく、ばらつきがあります。地域の方言だけでなく、それぞれの個性や自己イメージを反映した独特の言い回しや口語表現が使われることもあります。 

さらに、人は話しながら文を組み立てたり修正したりするため、文法的に正しくない表現の直後に、それをより正しい表現へと言い直すことがあります。こうした特徴を翻訳でそのまま再現しても、意味を理解しようとする人にとっては役に立ちません。 

会話の中では、相手の話を理解していることや同意していることを伝えるために、「うん、うん」といった短い相槌を打つこともあります。こうした相槌は、会話の流れを円滑にする役割を果たします。しかし、別の言語で会話の内容を理解しようとしている人にとっては、こうした相槌が翻訳文に不要な情報を増やし、かえって理解しづらくしてしまいます。 

そのため、翻訳では、こうした話し言葉の特徴を適切に取り除くことが重要です。

DeepL用語集で、用語を統一し、意図したニュアンスを保ちましょう

DeepL Voiceが精度と速度を両立する方法

リアルタイム音声翻訳プラットフォームは、完成した文を翻訳しているわけではありません。この点を考えると、この課題はさらに興味深いものになります。話し手が話している途中、まだ文全体の意味が明らかになっていない段階で、その文を翻訳しなければならないからです。 

そのため、私たちは少し異なる方法で翻訳を最適化する必要があります。単に最も正確な翻訳を目指しているわけではありません。私たちが求めているのは、正確でありながら、話の展開を変える可能性のある新しい情報にも柔軟に対応できる翻訳です。

例えば、次のようなケースがあります。 

あるバーチャル会議を想像してみてください。参加者の一人が英語で話し、もう一人はドイツ語字幕を見ながらその内容を追っています。 

英語を話す参加者が会話を遮って、「I found it.」と言ったとします。ここで、これが完全な文であると仮定すると、最適なドイツ語訳は「Ich habe es gefunden.」となります。 

しかし、リアルタイムの発話では、その文がそこで完結しているのかどうかを確実に判断することはできません。

この場合は、代わりに「Ich fand es」のような、後続の情報を自然に受け止められる訳を選ぶ方が適切かもしれません。というのも、その後、英語を話す参加者が「I found it frustrating」と続けた場合でも、「Ich fand es」という訳であれば、「frustrierend」を追加するだけで自然に対応できるからです。

一方、最初の3語を「Ich habe es gefunden」と訳していた場合は、訳文全体を書き換える必要があります。 

このような大きな「ちらつき」は、会話を自然に追う妨げになります。DeepLは、こうしたちらつきを可能な限り抑えることを目指しています。

言語ごとに異なる動詞の位置がリアルタイム翻訳を左右する理由

正確なリアルタイム音声翻訳には、このような文脈に基づく判断が数多く求められます。そして、そうした判断は、人間の専門知識を生かすことで、より適切に行うことができます。その専門知識には、文の意味を左右する重要な動詞が、言語によって文中のどこに配置される傾向があるかについての知見も含まれます。 

動詞が文頭に来る言語(フランス語やスペイン語など)では、文末に来る言語に比べて、翻訳を早い段階で表示できます。 

こうしたことすべてが、システムが正確さを確保できるだけの短い待機時間を取りつつ、理解を不必要に遅らせないようにすることにつながります。

DeepLの言語AIを活用する企業の成功事例をご覧ください

人間の言語学的専門知識がDeepL Voiceの高精度を支える理由

人間の言語学的専門知識と高精度な翻訳を組み合わせたDeepL Voiceは、すでにグローバル企業の会議や会話の体験に大きな変化をもたらしています。その一例が、NEC Corporationです。同社は、正式リリースからわずか数週間後に、DeepL Voiceを本格導入した最初の企業となりました。 

DeepL Voiceへの大きな期待は、それが音声翻訳にとって画期的な一歩であることの表れです。人々が話している内容を、その場で解釈し、翻訳できるようになることで、グローバル企業に提供できる価値は飛躍的に高まります。これにより、チームのコラボレーションの在り方が変わり、より強固な関係が築かれるだけでなく、多様なアイデアや視点を常に取り入れられるようになります。 

これまで私たちが積み重ねてきた成果は、すでに組織の働き方に大きな変化をもたらしています。これからの展開にも、ぜひご期待ください。

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